なっちゃんの友達が広島より 後編 (34)

なっちゃんの友達が広島より 後編

二人を乗せているので、ゆっくりとしたスピードで運転して、珈琲店に到着した。いつもよりお客さんが多かった。

なっちゃんとゆうちゃんはお店で流れているクラシックについて話し始めた。二人とも好きだったみたいだ。だって、オーケストラ部だったのだから。

僕から見た二人の共通点は、どこか抜けている所がある気がした、良い意味で。相当なお利口さん同士なのだけれど、スッと抜けていてバランスが良かった。二人の会話を聞いていると、どこかズレているように聞こえるのだけれど成立しているのだ。いや、僕が利口でないだけなのかもしれない。

そのうちに、三人の注文が運ばれてきた。やっぱり、全てが堂々とした雰囲気があった。器も「男」と「女」といった感じだった。またスイーツの甘美な旋律に酔いしれた。珈琲もしっかり堪能した。

この時にも、ゆうちゃんの元カレの話になったりした。僕が感じたのは「好きだけど、別れたんだな」という事だった。「好き」という気持ちだけでは、乗り越えられるものと、そうでないものがあるんだなと、僕のシックスセンスは反応した。

それでもやっぱり元カレに戻ろうとしたのは、どうしても忘れられなかったのだろう。たぶん運命ってやつだと思った。とっても冷静に語ってくれるゆうちゃんを見てそう思った。後悔と期待の混ざった表情だった、顔は微笑にどどまって、先の事を感傷しているようにも映ったからだ。

ゆうちゃんに「二人は良い感じでピッタリ」なんて言ってもらって、恥ずかしかったっけれど、胸がときめいた。色んな事を三人で笑ったり、真剣に話したりして時間はあっという間に過ぎた。

ゆうちゃんがお手洗いに行ってくると席を立ったのだけれど、すぐに戻ってきた。小さな声で「G」がいたと言った。それは困ったと思い、僕がトイレに向かった。僕は「G」は大丈夫な方で、それでパニック障害の発作は出たりしない、なんなら冷静に動きを読んで手でつぶせる。「G」はすでにひっくり返っていた。

席に戻って「お会計してくるから、帰る準備してて」と言って、なっちゃんに目で合図も送り僕は会計に向かった。この親切な(花火の話の時のお店)お店の方に耳の近くで小さな声で「お手洗いの床に、良くないそれがいるので取ってしまって下さい」と言って目で合図をすると「ありがとう」と小声で言われた。

二人はその様子を、外から見ていたようで「優しいね、良い事したと思うよ」となっちゃんが言った。僕はカフェで、お手伝いをしていたことがあるので「G」問題がどれだけデリケートな事なのか、知っていた。いや、みんな知ってるか。

それで、ゆうちゃんをお手洗いにという事になり、本屋さんへ向かった。そのお店では、三人でオードリーの若林正恭のエッセイ本があるか探そう!という事になった。僕とゆうちゃんはその本を読んで泣いたのだけれど、なっちゃんは読んでいなかったので、その理由がピッタリだった。

三人で探したけれど、若様(若林)の本は無かった。なんてことだと僕たちは笑った。そのうちに、三人とも散って雑誌をパラパラと見ていた。やっぱり二人の抜けた空気感て、これなんだよな。シンクロしすぎてるからよく分からないんだ!

ただ、ゆうちゃんの帰りの時間もあるので、切り上げて駅に送って行くことにした。帰りの車の中も、またほっこりした空気だったが、僕は少し寂しい気持ちになっていた。

そんな簡単にリトルトゥース(オードリーのANNのリスナーのこと)が三人も集まらないのである。

それよりも、なっちゃんが落ち着いて、僕も落ち着いていながら三人とも愉快である事は別格の時間というか空間というか表し難い事象なのだった。

ゆうちゃんを改札口まで見届けるつもりだったのだけれど、僕はなっちゃんに「入場券!ホームまで行こう!」と言って入場券を買おうとすると「大丈夫なの?」と言われたが、それどころではなかった。

安定剤も必要でなかった。パニック障害など「どうでも良くて」、とにかく新幹線のホームに行ってゆうちゃんを見届けたかった。

それと、この機会に新幹線と向き合っておきたかった。僕は新幹線が好きなのか分からなくなっていたのだから

理由は分からないが、体が少しポカポカしていた。たぶん感情が高まっていたのであろう。とにかく大丈夫だった、それで少しでも長く三人で笑って居たかった。たくさん写真も撮った。

そして、新幹線がホームに入ってきた。新幹線の扉が開くとゆうちゃんは「また!お幸せに!ありがとう」と言って新幹線に乗り込んでいった。僕たち二人もはたくさん手を振った。ゆうちゃんはホーム側の座席に座りこちらに手を振ってくれたのと、新幹線内から写真を撮ってくれていた。

実は三人とも泣いていた。笑顔いっぱいにして涙を流していた。

ゆうちゃんの新幹線が出発して、列車の見える最後まで見届けてから、僕は「ゆうちゃん、幸せになるといいね」と言った。なっちゃんは「そうだね」と涙を少し浮かべていた。

あと、なっちゃんにホームで「新幹線のホームはもう大丈夫だね」と言われて思った「そうそう、パニック障害ってこういうもんなんだよ」ってね。夢中とか没頭で、パニック障害には適応できます。

ゆうちゃんは元カレと無事にヨリを戻して今年結婚しました。って話です