なっちゃんの協力 (6)

なっちゃんの協力

京都旅行に行った後から、なっちゃんはパニック障害についていろいろ調べてくれていた。

例えば、人混みを避けてくれたり

例えば、エレベーターに乗らないようにしてくれたり

例えば、「今日は私が運転するよ」といってくれたり

それ以外にも認知行動療法を取り組みしてくれようとしていた。ただ、なかなか僕がそれを出来なかった。

主治医に聞いてみたい事があると言うので、一緒に診察室に入ってもらった。先生に京都の時の話を聞かれて、なっちゃんは僕の様子を細かく答えてくれていた。

先生は、僕がパニック発作を起こしたのでなく「昔経験した発作がフラッシュバックした予期不安」だと思うけれど、パニック発作に近いものだとすると、地震と同じで本震のあとに余震がくる。だからその余震を起こさないように今は過ごしたら良いと言った。

それと、あえて本人の前で言いますけど「彼と結婚するのはリスクが高い」、「共倒れしかねない」、「仮に結婚したとしても上手くいかなかったらバツがついて女性が不利になる」などと言った。

ただ、なっちゃんはどう寄り添えば良いのかについて聞いていたので「それでもと思うなら一定期間の同棲してみて、それでやっていけるかダメか決めるといいと思う」といった内容を言葉をかなり選びながら伝えてくれた。

先生は少し困っていたように思った。初対面であるなっちゃんの質問内容が鋭かったのだと思う。またそれは僕本人が思っていない質問だったのかも知れない。

そこまで言うのならという感じで答えやヒントを出してくれていた。

先生は「こんなに献身的なパートナーはなかなかいないから幸せですね」と言った。

なっちゃんは帰り道に複雑な顔をしていた。少し泣きそうな感じもした。「どうしたの?」と聞くと「私はあなたと別れた方が良いって事を言われたの分かる!?」と少しエキサイトしながら言ってきた。「リスクが高いって話だよね?」と言うと「自覚ある?」と言った。

「僕より良い人はいると思うよ」と言ったらなっちゃんは黙ってしまった。

なっちゃんは、何をどうやって協力していくのが良いか、分からなくなってしまったのかも知れない。また、僕もどうカミングアウトしていけば良いのか分からなくなってしまった。

なっちゃんはどんな人でも顔色を伺うので、僕が困っている時はすぐに分かってくれた。ただ、子供じゃないんだから口に出して言わないとダメだよ、ともよく怒られた。7つも年下の女の子に、まるで子供のように言われていた。

愛というのはすごいというのでなく、なっちゃんの人としての「やさしさ」と「素直」が凄かったのだと思う。