なっちゃんの喜びと戸惑い (18)

なっちゃんの喜びと戸惑い

春から本格的に計画していた会社設立の打ち合わせなんかをしていて、絶対にこの日に株式会社設立日としたいという事も決まっていた。

たまに打ち合わせを休むことがあった。僕は決まった時間とか、決まった場所とか相手がいることに関して苦手意識があったのだ。遅刻が怖いとかではなくて、決まったことをやらなければならない事が好きでない。めちゃくちゃストレスなのである。

なっちゃんが前日の夜や当日の朝に「行けそうになければ連絡すれば良いだけだから無理しないでね、心配しなくて大丈夫だよ」と言った具合にメッセージを送ってくれていた。

確かにそうだと思いながらも少し無理をしないと間に合わなくなってしまうので「心の落ち着け方」として取り入れていた。パニック障害の発作とは直接関係があるわけではないが全く無いわけでもなかった。

せっかく株式会社なのだから普通の会社でなく少し、いや、だいぶ変わった会社を作りたかった。だから会社の名前はかなり後回しになった。

「Make sure」(メイクシュア)にしようと思って80%決まっていたのだが何か引っかかる感じを持っていた。縁起とか語呂を大切にする僕にとっては絶対ダメな引っかかる理由が分かった、ローマ字読みで「マケスレ(負け掏れ)」とろくなことが無さそうな名前に読めてしまう。即却下となったのだが、次の候補が無かったし思いつかなかったのでなっちゃんに相談した。

なっちゃんは割としっかり考えてくれていた。「外国でも通じる日本語はどうかな?」これが決め手になった。すぐに決まった、なっちゃんは「それ私が言ってたやつだと思うよ」なんてたまに言う。

なっちゃんは僕が代表取締役になることに喜びと戸惑いを併せ持っていたと思う。それはこの人にとって重荷にならないかな?とか代表っぽく振舞えるかなとか。喜びってあったのかな、友達に会社経営者とか言うのは楽になったぐらいで喜んでないかもしれない。

僕は名刺交換もやっていなかったのと、スーツも着ていなかった。ちょっと前まで名刺交換の時は手が震えたりした、スーツは着ない、あと社長と呼ばれると機嫌が悪くなってしまう。(僕は東証一部に上場している会社の社長ぐらいが社長だと思っている。)

だからなっちゃんは戸惑いの方が大きかったと思う。僕は楽観的なところもあるのでどうにでもなるとか思っていられる。人間て本当に不思議だと思う。ただ、これぐらいで思っていないとパニック障害には優しくなれない。自分に優しくなることが大切だと思うんだ、過保護も厳禁だ。

司法書士には「長い事仕事をしてきたけれど、これほどまでに会社を考えて作った人はいなかったし、よく自分で調べたね。調べることが普通の会社より余りにも多すぎてもっと請求したいぐらいだけど出来ないな、いろいろ勉強になったよ」と言ってもらえた。

なっちゃんは僕が出来ないことをすぐに代わりにやってくれる、資料作りとかビックリするくらいすぐにやってくれる。やっぱりお利口さんなのと優しいのだ、僕が言わない事でも感じた事はくみ入れてくれたりする。「うん」の良い方でも気に入っているかどうかなっちゃんにはバレてしまう。僕は人にこれほど心を開いたことが無い、自分の考えていることを知られるのが好きでないから。

なっちゃんとの付き合いが3年目に入って少し経った頃に株式会社設立となった。それとその頃からクレジットカードで飛行機のマイルを貯めだしたのだ。なっちゃんには「まだ飛行機は難しいと思うよ、私は好きだけど好きじゃない人も一杯いるんだから」と言われた。

僕は飛行機に乗りたいと思ったのと、イギリスに行きたいという夢が実はあったのだ。