なっちゃんとの不協和音 (25)

なっちゃんとの不協和音

2年前のこの神無月という月に会社で車を買った、今回はAT車を買ったので、なっちゃんも運転が出来るわけだ。あと、ハイブリットカーにしたが特に理由はなかった。普通の自動車なら何でも良かった。

なっちゃんと喧嘩が増えていった、僕の仕事がなかなか形になっていかない事とか、電車トレーニングをしてみないとか。電車に関連しては、この頃は大丈夫になりかけていたが、駅のホームからなっちゃんが電話を掛けてくると「パニック障害の発作」を思い出してしまい、電話を途中でやめていた。特に新幹線のホームからの電話は怖かった記憶がある。

「駅に行ってみようか?」という、なっちゃんの克服計画にはいろんな言い訳をして避けていた。やっぱり相当怖かったのだと思う、あと好きなものが好きでなくなったというショックも大きかったかも知れない。

愛知県の長久手市にIKEAがオープンして、少し経った頃だったので行ってみることにした。もうそれはとっても混んでいて、道が進まなかった。渋滞でパニック障害の発作になったことは無いが、やっぱり少しイライラした。車内で喧嘩が始まった、そう最悪のパターンの始まりだ。なっちゃんは名古屋駅近辺にも行きたかったのだ、僕がIKEAを諦めて名古屋駅近辺に行こうとしなかった事に怒っていた。

IKEAには駐車場の空き待ちを1時間半ぐらいで入店できたが混んでいた、間違いなく土曜日には行かない方が良かった事は、この時点で確信していた。店内を見ているうちに、食事をする所が目に入ってきて行ってみた、食べ物を選んでからお会計をするまでに30分かかった。平日なら6分で済むはずだ、誰にか知らないが約束する!

二人で美味しいねと言いながら食べた、量はなっちゃんのほうが多かった。なっちゃんは「こんなに人がいても大丈夫なんだね」と本音を言った、僕は「こんなに人がいても大丈夫だとは思わなかった」と本当の事を素直に言った。

それから、また見て回る事にしたのだけれど、間違いなく人酔いをした。なっちゃんに「こっちおいで」と手を引っ張ってもらいながら店から出た、「パニック障害の予兆だと思った」と言っていた。7歳年下の彼女とは思えないしっかりした彼女だ、やっぱり野暮じゃない。途中まで車を運転してもらって、途中から運転を交代して僕が運転した。なっちゃんは寝てしまった、てんかんの薬は飲んでいなかったように思った、疲れたんだと思う。

こんなことがあったりして、なっちゃんも僕もがっかりしたのだ。

主治医にこの話をしたら「わざわざ人混みだと分かっている所に行かなくて良い」と言われた。「IKEAか名古屋駅周辺ならIKEAのほうがましだと思った」と続けたが「土曜日なんかはどこも混む」と言われた。「あなたの彼女はそうしてまで行きたがると思わない」と言われたので「彼女の友達のように普通のデートをしたいんだと思う」と言うと。主治医は少し俯いて「そうでしょうか?」とだけ言った。

僕はこの後に平日であったのでIKEAに行ってみた、やはり平日は空いている、土曜日の光景が嘘みたいだった。土曜日に行ったのが間違いだった、あと一人でIKEAに行っても面白くない。それと、先に一人で下見をしておけば良かったと思った、IKEAは広いのだけれど、広すぎて自分がどこに居るのか分からなくなる。そう、逃げ場がどこなのか分からないのだ、これは後の学習となった。子供の時に、親とはぐれて迷子になった時の気持ちを覚えていないだろうか?まさにその感じと似ている。

何事もそうだと思うが、逃げ場は大事である。僕は、10年以上の喫煙者であったがなっちゃんと付き合って1年ぐらいで禁煙に成功した、これはなっちゃんという逃げ場を見つけて成功したのだろうか?、いや僕の意思の問題だ。ちなみに「タバコやめて」なんて言う野暮な彼女じゃない。

パニック障害も、ある時からふっと忘れたようになる時がくる。それは自信なのか自然なのか、治療でなのか分からないがそんな時が必ずやってくる